名古屋高等裁判所金沢支部 昭和31年(う)158号 判決
次に職権を以て原審事実認定の当否を案ずるに、原判決に依れば、原審に、判示第三(五)(六)第四(一)(五)(六)に於て、被告人の森安左衛門、山岸輝友、山岸靖昌等に対する各金品供与の事実を、それぞれ認定していることを認め得るところ、他方、いずれも原審の引用に係る森安左衛門、山岸輝友、山岸靖昌、宮川仁之助及び被告人に対する検察官作成各供述調書の記載を検討すれば、(一)森安左衛門は、原判示の日宮川仁之助の置いて行つた菓子包を点検し、これに百円紙幣三枚の在中することを発見し、斯る金員は受領すべきでないと考え、その翌朝被告人にこれを返却し、その後原判示の日、再び宮川仁之助が来て置いて行つた金一万四千円在中の紙包を、前同様の考慮より、その翌朝宮川仁之助に返却したものであつたこと、(二)山岸輝友は、原判示の日河和田村長禅寺に於て、被告人及び宮川仁之助から提供された菓子包に、百円紙幣三枚の在中することを、帰宅後点検して発見し、それより一両日後である原判示の日、宮川仁之助がさらに置いて行つた金五千円在中の紙包と共に、斯る金員はいずれもこれを受領すべきでないとの考慮より、金五千円を受領した日の翌朝、宮川仁之助にこれを一括返却したものであつたこと、(三)山岸靖昌は、原判示の日宮川仁之助が来て置いて行つた菓子包に、百円紙幣三枚の在中することを発見し、斯る金員は受領すべきでないと考え、翌日頃木村嘉平を介し、宮川仁之助にこれを返却したものであつたこと、すなわち、森安左衛門、山岸輝友、山岸靖昌は、いずれも被告人より金品の供与を受ける意思を有せず、叙上の如く提供された金品を、それぞれ遅滞なく返却した事実を認めるに足る。言う迄もなく、公職選挙法第二百二十一条第一項第一号所定の供与罪は、相手方の受供与行為と相俟つて、はじめて成立する所謂必要的共犯であり、若し相手方に受供与の意思なく、提供された金品を直ちに返却するに於ては、供与者の所為が供与申込罪を構成するは格別、その金品提供の所為について、供与者側にのみ片面的に、供与罪の成立を認むべきでない。叙上原審認定は、畢竟するに証拠内容を適確に把握せず、延いて事実を誤認したものに外ならず、右の誤認は少く共其量刑の面に於て判決に影響すると考えられるから、原判決はこれを破棄すべきである。
(裁判長判事 水上尚信 判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫)